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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(テ)13号 判決

鎌倉市大町三一八番地

上告人

春藤茂男

右訴訟代理人弁護士

田崎文厚

鎌倉市大町三一八番地

被上告人

加藤虎之助

右当事者間の家屋明渡請求事件について、東京高等裁判所が昭和二八年一一月一三日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の特別上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件特別上告を棄却する。

特別上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士田崎文厚の上告理由は別紙記載のとおりである。

論旨は、憲法一二条を云々するけれども、その実質は単なる訴訟法違反の主張に帰し、特別上告適法の理由とならない。

よつて、民訴四〇九条ノ三、四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二八年(テ)第一三号

特別上告人 春藤茂男

特別被上告人 加藤虎之助

上告代理人弁護士田崎文厚の特別上告理由

一、憲法第十二条に於ては国民の権利の濫用を禁止し居る処、本件は権利の濫用あるに拘らず裁判所は特別上告人が主張する権利の濫用に関する事実について審理判断しないで之を看過し、憲法の制定に関する禁止事項を裁判に於て不問に付した違法がある。従つて其の裁判は憲法の違反に属するものである。民事訴訟法第四百九条の二に定むる特別上告の規定は此の場合にも拡張して解釈せらるべきものであるとの見地より上告理由としたものである。

二、由来本事件に於て特別上告人は第二審に於て、特別被上告人の為した建物賃貸借契約解除について其の解除権の行使が不適法である、即ち特別被上告人は賃貸借契約が確認された確定判決を否定し、賃料の受領を拒み、賃料供託した部分の供託書を返送し、賃貸借契約の存在さえ否定して居た際、突如賃料を明示しないで僅かに三日の短期間を指定して延滞賃料の催告をして来たのであるから、上告人は被上告人の真意を把握することが出来ず其の処置に迷つているうちに、被上告人は催告期間を徒過したとして契約解除の意思表示を為したものであるが、此の延滞賃料の催告は特別被上告人に於て延滞賃料を催告する真意があつたのではなく単に契約解除の目的を達成する為めの手段としてのみ之を行使したものであるから、上告人は被上告人の其の権利行使を信義誠実の原則に反した権利の濫用であると主張したに拘らず、第二審は之を不問に付し審判することなくして看過したのである。

三、而して上告審は第二審の此の欠陥を認めて其の審判が不法であると認定して居る処であるが、之に関する上告審の判決は特別上告人の主張する部分について「被上告人が賃料について期間を明示して催告して居る以上仮令金額が明示されていないとしても上告人として右催告を受けた賃料を催告期間内に提供して支払うべき義務があり右期間内に支払わなかつたから賃貸借契約を解除されても止むを得ない、従つて被上告人の為した催告が信義誠実の原則に反して居るとも又権利の濫用であるとも認めることは出来ない」と判示して居る、然共其の催告の期間の適正については何等触れる処はない。本件催告期間は三日であり此の期間は債務者遅滞の場合に於ては或は相当の期間であるとも考えられるが、本件の場合は債権者の受領遅滞に属する時であつて此の事は第二審及上告審に於ても認めて居る、斯かる場合の催告については社会通念に照し三日の期間は短期間に失し相当でない(旅行其の他の不在の場合もあり更めて準備の必要もあり懈怠のない債務者に対して行う民法第五百四十一条の契約解除に於て其の前提とする催告の期間としては短期間に失し相当でない。由来債権者遅滞の場合は民法第五百四十一条は直に適用すべきものでないと考えるが上告審は之を否定して居る)。然るに上告審は此の重要な部分について其の判断を逸脱して居るものである。斯くの如くにして上告審は単に特別上告人の主張を以てしては権利の濫用と認めることは出来ない旨を判示されたのみであつて、第二審が判断を欠除した違法の部分について上告審も亦同一の違法を重ねたものと謂うべきである。

四、依つて前示第二審及上告審の裁判は上告人の主張する憲法所定の権利濫用禁止に関する原則について適法な裁判をしないことゝなり結局憲法に違反する違法あるものと思料するに付、右に関し然るべく審理を尽され度い。

以上

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